ショパン・コンクール審査員が痛烈批判「若いピアニストは謙虚さが足りない」

2025年10月中旬、ショパン国際ピアノコンクール第3次予選の最中に、ある審査員の発言が音楽界に大きな衝撃を与えました。
発言の主は、第11回(1985年)大会で第3位を受賞したピアニスト、クリシュトフ・ヤブウォンスキ教授。
ポーランド国営ラジオ「Program Drugi」のインタビューで語った内容が波紋を呼び、ネット上では「勇気ある発言」「時代への警鐘」と賛否が渦巻いています。


ショパンの精神はどこへ?「若いピアニストたちはYouTubeのコピーをしている」

ヤブウォンスキ教授はインタビューの中で、こう語りました。

「本当の意味でのポロネーズは、まだここで聴いていません。若いピアニストたちは音楽を深く学ばず、YouTubeで見た演奏を真似しているだけ。観客ウケを狙って演劇のように弾いている。みんな近道でキャリアを築こうとしているのです。」

教授は、現代の音楽教育全体が「知識よりも印象重視」「研究よりも模倣」に傾いていると警鐘を鳴らしました。
マスタークラスで「ポロネーズを実際に踊ったことがあるか」と尋ねても、多くの学生が「いいえ」と答える――それが現実だと語ります。


「楽譜に忠実でない演奏」「拍手を狙うステージ」への嘆き

教授が最も問題視したのは、「作曲家の意図を無視した演奏」でした。

「今の演奏は楽譜どおりに弾かれることが少ない。すべてが感覚的で、観客の反応を狙っている。ステージでは“爆発するエゴ”ばかりが目立つ。謙虚さや知識が欠けている。」

また、こうした“演技的演奏”ほど観客の拍手を集める現実にも疑問を呈しました。
「目を閉じれば何も感じないのに、目を開ければ劇場が始まる。これは音楽ではありません」と語り、拍手の基準そのものが変質していると指摘しています。


「教育の崩壊」への痛烈な警鐘

教授の発言は、単なる出場者批判ではなく、音楽教育全体への警告です。

「今では音楽の“師”がインターネットとYouTubeになってしまった。若者たちは読まず、分析せず、学ばず、ただ早く有名になりたい。結果として、他人の間違いをそのまま真似してしまう。」

この一節は、ポーランド国内でも大きく報じられ、クラシック界で長くタブー視されてきた「教育の空洞化」に踏み込んだ発言として注目を集めています。


「美しいショパンほど拍手が少ない」

ヤブウォンスキ教授は、批判だけでなく希望も語りました。

「ここには本当に美しく、品格あるショパンの演奏もあります。
ただ、そうした演奏は“派手さ”がないため、観客の反応が薄いのです。
静かな美しさは退屈だと思われ、商業的に“売れない”のです。」

教授のこの言葉は、現代社会の“見せ方重視”の価値観にも通じます。
クラシック音楽が「心の静けさ」よりも「映えるパフォーマンス」に傾きつつある――その現実を鋭く突いた発言といえます。


音楽教育者たちも同調。「ショパン演奏の魂が失われつつある」

このインタビューに続き、ポーランドの音楽評論家で元ヴロツワフ音楽大学学長のマレク・ディジェフスキ教授もコメントを発表しました。

「ヤブウォンスキ氏の発言は、音楽教育の危機を突く極めて正確な診断です。
若手ピアニストがショパンの精神を理解せず、楽譜の正確さも軽視している。
しかも、彼らの中には審査員自身の弟子も含まれており、教育者層にも責任があります。」

この発言は、審査員の構成や教育体制そのものにも波紋を広げました。
今回のコンクールでは、出場者の3分の1以上が審査員の教え子だとされ、公平性の問題が再び議論の的になっています。


「教授の発言は“暴言”ではなく“覚醒の合図”」

一部メディアは、「審査員がコンクール中に発言するのは不適切」と批判しました。
しかしポーランド国内では、「名指し批判ではない」「むしろ伝統への警鐘だ」と擁護する声が広がっています。

中には、他の審査員が開幕前に「優勝者はおそらく若いアジア人だろう」と発言していた事実を引き合いに出し、
「なぜヤブウォンスキ教授だけが責められるのか」と疑問を呈する評論家もいます。


「100年前の理念に戻る時が来た」

1925年、ショパン・コンクールを創設したイェジー・ジュラヴレフ教授は、
「ショパンの音楽を正しく守り、演奏の様式を次世代に伝えること」を理念として掲げました。

今回のヤブウォンスキ教授の発言は、その原点を思い起こさせます。
音楽が“映像化”と“即時性”に飲み込まれる時代において、
「楽譜を読む力」「静かに聴く力」を取り戻せるかどうか――
それが、ショパン・コンクール100年の節目に問われているのかもしれません。

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